写真家・浅井愼平さんインタビュー
「人生はハローとグッドバイでできている」
——時代の真ん中を歩いてきた60年【後編】
1966年のビートルズ来日を撮影した浅井愼平さん。前編では、ビートルズとの出会いや、写真という表現が大きく変化した時代、そして「僕は裸を撮らなかった」という浅井さんの写真観について伺いました。
後編では、今回の展示会で展示される作品シリーズ「HOBO(ほうぼう)」や、世界各地での撮影を通じて感じたこと、そして長年の活動の中で出会った人々との思い出についてお話を伺います。
写真家として、表現者として、そして一人の人間として歩んできた人生を振り返る中で見えてきたのは、「人生はハローとグッドバイでできている」という浅井さんならではの人生観でした。
「HOBO」という言葉との出会い
今回の展示会でも展示される作品シリーズ「HOBO(ほうぼう)」についてお聞かせください。その言葉にはどのような意味があるのでしょうか。
カリフォルニアにずいぶん長い間行ったり来たりしていた頃、時々、「HOBO」という言葉が耳に入ってくるんですよ。最初は何だろうと思っていたんです。
でも調べてみると、日本人移民の人たちが使っていた言葉だったんですね。向こうへ渡ったものの、なかなか定着できなかったり、仕事を探してあちこち移動したりする。そういう人たちのことを指していた。その言葉を聞いた時に、僕は何となく歴史を感じたんですよ。
ちょうどその頃、日本の写真家たちも海外へどんどん出ていく時代でした。だからHOBOという言葉と、自分が見ていた風景がどこかで重なったんです。
写真という表現もそうだけど、人間というのは移動しながら生きていくんだなということを、何となく感じていましたね。
世界中が撮影現場だった時代
当時は海外ロケも多かったそうですね。
ものすごかったですよ。今思うと不思議な時代ですね。最初はグアムから始まったんです。それからカリフォルニアへ行くようになって、西海岸から東海岸へ行くようになった。さらにヨーロッパへ行ったり、中国へ行ったり。世界中が撮影現場みたいな時代でした。
特にコマーシャルの世界はそうでしたね。海外で撮影するのが当たり前みたいになっていた。本当にそんな時代があったんです。
今振り返ると、本当に恵まれた時代だったと思いますね。
旅では見られない世界を見せてもらった
海外での経験は、ご自身にどのような影響を与えましたか。
やっぱり世界を見せてもらったことじゃないですかね。旅行だったら行けないような場所へ行けた。旅行では過ごせないような時間を過ごせた。砂漠で撮影したりね。いろんな島へ行ったり…そういう経験は大きかったと思います。
特に僕はカリフォルニアが好きでした。当時のカリフォルニアには、まだ開拓時代みたいな空気が残っていたんですよ。何もない地平線があって、その向こうに都市がある。そういう景色が面白かった。それから南太平洋の島々も好きでしたね。島という存在そのものが好きなんです。
そういう場所を巡りながら、自分が地球の上で生きているんだということを意識できた。それは人生にとって良かったことだったと思います。
「運が良かったんですよ」
写真家人生を振り返って、ご自身ではどのように感じていますか。
運が良かったんですよ。本当にそう思います。
ビートルズに出会えたこともそうだし、写真という表現が大きく変わる時代にいたこともそう。
カメラも良くなった。フィルムも良くなった。印刷も良くなった。メディアもあった。雑誌も元気だった。広告の仕事もたくさんあった。
そういう時代と僕の青春が重なったんですよね。
だから機材の発展と僕の青春がオーバーラップしていた。僕はよくそう思うんです。もちろん努力しなかったわけじゃない。でも、努力だけじゃ説明できないこともある。
時代が少し違っていたら、僕はここまで写真を撮れていなかったかもしれません。だから運が良かったんじゃないですかね。
人生は思いがけない出会いでできている
長い活動の中で、さまざまな出会いがあったと思います。
そうですね。振り返ると、人との出会いが大きかったような気がします。
ビートルズもそうだし、写真家仲間もそうだし、後に有名になる人たちともたくさん出会いました。
例えばタモリもそうですね。まだ有名になる前で、うちの事務所に毎日来ていたんです。朝になると「おはよう」って小さい声で入ってきてね。
その頃は、今みたいになるとは誰も思っていなかった。でも人生って面白いですよね。彼は本当はトランペットを吹きたかった。だけど別の才能が開いた。
人間って、自分が思っていた形とは違うところで道が開けることがあるんです。
僕自身も映画監督になろうと思っていたのに写真家になった。
そう考えると、人生というのは本当に不思議なものだなと思いますね。
時代の真ん中にいられた幸運
展示会タイトルにもなっている『星空のハローグッドバイ』には、どのような思いが込められているのでしょうか。
人の人生って、究極はそういうものじゃないですかね。ハローとグッドバイ。
出会いがあって、別れがある。人生というのは、その繰り返しなんだと思うんです。
僕もいろんな人と出会いました。
ビートルズもそうだし、写真家仲間もそうだし、世界中のいろんな場所とも出会った。振り返ると、本当にたくさんの出来事がありました。でも僕はいつも思うんですよ。
運も良かったのかなって。
僕らの世代は、いろんなものが新しく生まれる時代に立ち会えた。
写真という表現もそうだし、音楽もそうでした。
カメラも進歩したし、フィルムも進歩した。メディアも元気だった。
そういう時代の真ん中にいられたことは、本当に幸運だったと思います。だから今回の展示も、何か特別な結論を伝えたいわけじゃないんです。振り返ると、こういう人生だったなということですね。
人生というのは、ハローとグッドバイでできている。
今はそんなふうに思ったりしますね。
展示会情報
| タイトル | 浅井愼平60th「星空のハローグッドバイ 浅井愼平写真展」 |
|---|---|
| 会期 | 2026年7月8日(水)~7月20日(月・祝) 最終日午後6時終了 |
| 会場 | 日本橋三越本店 本館7階 催物会場 |
| 入場料 | 無料 |
| 主催 | 浅井愼平60th写真展 実行委員会 |
| 公式サイト | https://hellogoodbye-shimpeiasai.jp/ |